はじめに〜「ディメンシア島」の旅行者設定はよかったのか?〜
『認知症世界の歩き方』は、筧裕介氏による、認知症患者の体験や視点を「旅のスケッチ」や「旅行記」として表現した一冊です。
イラストやアイコンを活用して情報が整理され、索引も充実しているため、一般読者には分かりやすく感じられる点が評価されています。
しかし、介護現場で働く私たちにとっては、内容の深みや実用的なアドバイス、そして認知症患者やその家族が抱える現実の大変さへの配慮が十分ではないと感じざるを得ません。
本書は、認知症患者が「ディメンシア島」という島の旅行者の設定で描かれています。

ちなみにディメンシア(dementia)は英語で「認知症」のことです。
ですが、誰も自発的にそんな島へ旅行を望むわけではなく、認知症状(本書でいうストーリー)から抜け出せずに苦しんでいる現実があるのです。
今回も、かいごのともしびの評価項目に沿って、本書の魅力と課題を詳しく検証します。
この記事は、主任介護支援専門員の資格を持つ現役ケアマネジャーが執筆しています。在宅介護でお悩みの方に信頼できる情報をお届けすることを目的としています。
「認知症世界の歩き方」はどんな本なの?
『認知症世界の歩き方』は、筧裕介氏が、認知症のある方が実際に体験する世界を旅行記とスケッチ形式で描いた一冊です。
医療者向けの専門的な解説とは一線を画し、「ミステリーバス」や「顔無し族の村」、「トキシラズ宮殿」など、日常で感じる困難や不思議な現象を、ストーリーとしてユーモラスかつ身近に表現しています。

RPGみたいな設定ですね。
認知症患者約100名へのインタビューに基づいて、単なる症状の羅列ではなく、患者が実際に感じていることが具体的なエピソードとして伝えられており、患者やその家族が現実を理解する一助となる内容です。

面白いコンセプトだね。絵もかわいいし、手に取りたくなる本だね。
内容の豊富さ:★★★★☆
本書は、認知症に関するさまざまな現象や症状を幅広くカバーしています。
「アルキタイヒルズ」や「サッカク砂漠」など、具体的なエピソードを通して患者が体験する現象を伝えようとして、一見して独自性を感じさせます。一般の読者にはその表現の斬新さが好評のようです。
しかし、その幅広さの裏で、実際の介護現場で求められるような、各テーマに対するより深い掘り下げが不足している点が惜しまれます。
例えば「七変化温泉」では「水分補給のタイミングがわからない」という症状に触れられていますが、それ自体は介護職もご家族様も興味のある内容です。
しかし、その原因を本書では説明しているだけで、解決策は何も示されていません。
現場で深い知識や具体的な対策を求める介護職の読者にとっては物足りなさを感じる部分が否めません。

認知症状をわかりやすくしたい気持ちもわかるけど、症状は「ミステリーバス」とかのアトラクションのように例えて、それからどうするかが抜けているね。
実用性:★☆☆☆☆
介護現場では、認知症患者が抱える具体的な問題への対処法が非常に重要です。
しかし、本書で提示されているPART2「認知症と生きるための知恵を学ぶ旅のガイド」は、すでに多くの現場で知られている基本的な内容に留まっており、実践的な解決策が十分に示されていません。
また、一例として「カクテルバーDANBO」では、車のブレーキとアクセルを踏み間違えることについての説明がありますが、説明だけでそれの解決策が何も示されていません。
逆に認知症状としてすべて説明してよいのか、疑問に感じます
実用性の面については、Amazonの低評価レビュー(★1つ・★2つ)の中で「参考になった」という票が非常に多く(約300票や500票)付けられていることからも、多くの読者が実際の現場での有用性に疑問を持っていることがうかがえます。
これは、現実の介護現場で求められる具体的な解決策が大きく不足していることを示すものです。

評価の数的には、星5つが多いけど、「参考になった」の数は星1つと星2つのコメントに多く入っています。
読みやすさ:★★★☆☆
本書は、ひとつの項目を枠でくくりながらを簡潔にまとめる構成で、全体としては整理されたレイアウトや豊富な索引、イラストの効果により読みやすさが評価されます。

アイコンの使い方や検索しやすさは、これまでの介護系の書籍にはないわかりやすさだね。
著者はなるべく平易な表現を心がけ、専門用語を避けるよう努めていますが、その結果、内容が抽象的になりすぎて、複雑な認知症の現実を十分に伝えきれていない部分もあります。

結局、この本で意識している「わかりやすさ」はどの読者を対象にしているかわかりません。
つまり、どの読者にも「ささらない」内容になっています。
具体的な説明が不足しているため、より深い理解を求める読者には物足りなさを感じさせてしまいます。
気持ちへの影響:★☆☆☆☆(0.5/5)
「旅のスケッチ」や「旅行記」という表現は、一見すると親しみやすく、楽しい旅行のイメージを連想させるかもしれません。
しかし、認知症患者が実際には自発的に旅行に出かけるわけではなく、むしろ症状に縛られて抜け出せずに苦しんでいる現実があります。

ただの説明では、認知症患者本人やその家族の深刻さを十分に反映できていないと感じるね。
この本の章の構成は、以下の通り
- STORY
- そのSTORYに関連する説明
- 旅人の声(認知症患者の声)
- 関連する心身機能
これらを説明し続けるだけで、実用的な解決策が何も示されていません。
Amazon上の低評価レビューには、この点に関して「こんな旅行には誰も行きたくない」といった意見や、「現実の苦しみが伝わらない」という声に「参考になった」票数が入っています。

逆にこれらの解決策を示すことができれば、これほどいい本はないという可能性もあるね。
総合評価:★★☆☆☆
全体的な印象
本書は、表面的なデザインや整理されたレイアウト、そして分かりやすさという点では一般の読者に支持されやすい面があります。
しかし、介護現場で実際に働く私たちにとっては、現場のリアルや具体的な対策、そして認知症患者やその家族への深い配慮が不足していると感じました。

買ってがっかりした介護職の方やご家族は多いと思います。

中古本の値段の落ち方も見ても、結構売りに出した人が多いのだろうね。
個々の評価項目のバランス
内容の豊富さは★4、実用性は★1、読みやすさは★3、気持ちへの影響は★0.5と評価しました。
特に、実用性と気持ちへの影響が低評価であることが全体の評価★2に大きく影響しています。
Amazonの低評価レビューでは、「参考になった」という票が多数付いており、実際に現場で働く方々や家族の声が強く反映されていると感じました。

コンセプトやアイデアが良かっただけに、がっかり度も大きくなってしまったのだろうね。
個人的な体験や感想
介護現場での実体験から、本書は認知症の現実の深刻さを十分に伝えられていないと感じました。
患者が自発的に「ディメンシア島」へ行くことはなく、むしろ症状に縛られて苦しんでいる現実があるにもかかわらず、その苦悩が軽んじられているように思えます。

ディメンシア島を抜け出したくても抜け出せない状況は理解すべきです。
ターゲット読者
本書は、認知症の基本を知りたい一般読者や入門者に対しては、分かりやすさという点で一定の価値があるかもしれません。
しかし、実際の介護現場で働く専門家や、認知症患者と向き合う家族には、具体的な対策や深い理解が不足しているため、推奨しづらい内容です。
本当に、在宅介護の大変さも知らない人が「認知症ってどういうものなのかな?」といった感じの興味本位の人が読む以外は、誰にも推奨できません。
推奨度
この書籍は、認知症についての基本的な知識を知るための入門書としては一定の評価を得られるものの、現場で直面する具体的な問題や関わりの大変さを理解するためには不十分です。
旅のガイドに「スマートフォンを使って、生活を楽にする」という章があります。確かに活用できれば便利です。しかし、現実的に認知症患者の方々が活用するのは容易ではないと思います。
Amazonの低評価レビューで多数の「参考になった」と評価されている点からも、現場のリアルな声が強く反映されていることが分かります。

低評価のレビューへの参考になった票数が300とか500あるから、多くの方が同じ気持ちなのかもしれないね。
したがって、
現実の介護現場で役立つ情報を求める方や、認知症患者・家族の深刻さに寄り添った対策を探している方には、おすすめできません。
おわりに
『認知症世界の歩き方』は、認知症の理解を広めるために表現やデザイン面で一定の評価を得ています。
しかし、認知症患者が「ディメンシア島」を旅するという表現は、現実に苦しむ患者やその家族の厳しい状況を十分に反映していませんでした。

期待も大きかった分だけ、がっかり度も大きかった印象です。
介護や在宅ケアの現場で働く方々、また認知症患者の家族にとっては、
- 実践的な対策
- 具体的な解決策
- 深い理解に基づく配慮
これらが欠けているため、総合評価は★2となりました。
皆様も、認知症に関する書籍を選ぶ際には、発行部数に惑わされず、見た目の分かりやすさだけでなく、実際の現場で参考になりそうな具体的な対策がどれだけ盛り込まれているか、あなたにとってわかりやすいかをしっかりご検討いただき、購入を検討してください。
大ベストセラーだから、肯定的な書評になると思っていたのにびっくり。でも、正直に書かせていただきました。

在宅介護をがんばる皆さまのココロが晴れやかになりますように!
17万部の大ベストセラーで、NHKでも番組化されてすごいよね!