待機順=先着順じゃない|特養の申込書で損しない書き方(例文付き)

はじめに

特養の入所は、基本的に「先着順だけ」で決まるとは限りません。

見られやすいのは、要介護度だけでなく「在宅での限界」「介護体制」「危険性」などの軸です。

申込書の特記事項は、頻度 × 場面 × 結果(何が/どれくらい/どう困る)で具体に書くと伝わります。

この記事では、盛らずに事実を強く伝えるコツと、入所希望理由の例文3パターンも載せています。

入所申込書の「書き方」より大事なこと(=家族の伝え方)

入所申込書の「意見書」を書くのは、ケアマネジャーさんです(これまで私もたくさん書いてきました)。入院中の場合、医療連携室の相談員さんが書くこともあります。

ところが、 ただ意見書を書いてくださいと言うだけでは、ケアマネジャーさんは、その高齢の方の 日中の様子や日常生活の動きや既往歴、飲んでいるお薬などを記載するような傾向があります。

これでは、その人の普段の状況はわかっても、どうして入所が必要なのかが分かりません。

これはケアマネージャーの力量なのでしょうか?

ここで一つだけ、はっきり言っておきたいことがあります。

申込書の出来は、書く人の文章力で決まりません。

決めるのは、ご家族が「何」を、「どれだけ」「具体的」に伝えられるかです。

ご家族の状況がうまく共有できていないと、申込書の内容がどうしても生活状況の内容がメインになります。

すると、読んだ側が「どれほど切迫しているのか」を読み取りにくくなります。

点数帯が近い人同士で並んだとき、最後は“文章から伝わる現場感”が差になることもあります。

ここからは、ご家族が伝えると強いポイントを、整理していきましょう。

「事実を盛る」のはNGです!
困りごとを「具体的に正確に伝える」方法となります。

1)家族構成・介護体制(「人手」と「限界」を見える化)

遠慮して短くしがちですが、在宅の限界が一番伝わるところです。

  • 同居家族は何人か(続柄も)
  • 働いている人は何人か/学生はいるか(生活の現実)
  • 家族の中に、すでに介護・看病を抱えている人はいないか
  • 主たる介護者は誰か、介護できる時間はどのくらいか(夜間含む)
  • 近くに親戚・きょうだいはいるか(いても協力が難しい事情があるなら、その事情)

「親戚はいる」だけだと、読む側は“手伝えるのでは?”と受け取りやすいです。

2)住まいの状況(家がバリアになっていないか)

日本の家は、介護が必要になってから急に難しさがが出ます。

  • 玄関の段差
  • 室内の段差(昭和〜平成初期の家に多い)
  • 廊下やトイレが狭い/手すりが付けにくい
  • 車いすだと回れない間取り

「段差がある」で止めずに、生活のどこで詰まっているかを一言添えると伝わります。
例:「トイレまで車いすが通れず、毎回抱える必要がある」など。

3)ご本人の状態(“困りごと”を、場面で説明する)

① 認知症があり、足腰がまだしっかりしている場合

このタイプは、家族の疲労が一気に増えます。

  • 夜間に何度も起きてトイレに行く/家中を歩き回る
  • 食べ物を探す、台所を触る(火の心配が出る)
  • 玄関を開けて外に出ようとする
  • 昼夜逆転で、家族がまとまって眠れない

ここは「危ない」「大変」だけでなく、
**頻度(毎晩・週に何回)実際に起きた出来事(転倒、近所トラブル等)**があると、一気に伝わります。

② 介護の手間が増え、移動が難しくなった場合(車いす・寝たきり)

歩けていた方が車いすになった瞬間、在宅は難易度が跳ね上がります。
家の構造が“介護向き”ではないことが多いからです。

  • 段差と狭さで、移動介助が毎回危険
  • 移乗(ベッド⇄車いす、トイレ)が家族だけでは厳しい
  • 夜間の介助が必要になると、家族が持たない

訪問介護や訪問看護を入れても、24時間を全部カバーできるわけではありません。
結局、それ以外の時間の負担は家族に集中します。
この“空白の時間”を、具体的に言葉にして伝えるのが大切です。

4)点数・基準は地域差がある(だからこそ一度は確認)

入所調整に点数の仕組みを設けている自治体もあり、評価項目や配点は地域で差があります。 新宿区役所

「(自治体名)+特養+入所判定基準/入所調整基準/選考調査票」

などで検索して、どういう項目が見られやすいか確認してみると良いと思います。

ただし、点数の部分は“操作”できるものではありません。

だからこそ、最初にお伝えしたとおり、ご家族の切迫した現実を、事実として具体に伝える

ここで差がつく可能性は十分あります。参考になれば幸いです。

補足:要介護1・2でも「特例入所」が検討対象になることがあります

原則は要介護3以上ですが、自治体によっては要介護1・2でも、認知症の症状・独居・介護者の状況などの要件に該当すると入所検討の対象になる旨を明記しています。 横浜市公式サイト

「うちは要介護2だから無理」と決めつけず、条件に当てはまるかは一度確認してみてください。

例文3パターン

ここから下は、必要なところだけ入れ替えて使ってください。

「盛る」必要はありません。“いつ・どれくらい・何が起きるか”を淡々と書くだけで、文章はちゃんと強くなります。

例文①:認知症+歩行可(夜間徘徊/火の心配/家族が眠れない)

【特記事項/入所希望理由(例)】
本人は認知症があり、夜間に目が覚めてしまうことが多くあります。深夜〜早朝に居室を出て、台所や冷蔵庫を探し回る行動がみられます。ガス台の近くに立つこともあり、こちらが目を離せず、火の不安が消えません。
また、夜間のトイレ誘導が複数回必要で、家族は連日まとまった睡眠が取れない状況です。日中の就労や家事にも影響が出ており、このまま在宅で安全を守り続けることが難しくなっています。デイサービス等は利用していますが、夜間帯の見守りはどうしても家族の負担となり、限界が近いと感じています。

【ひとこと追記(事実がある範囲で)】

  • 「外に出ようとして玄関を開けた」「鍋や包丁を触った」など、“具体場面”があると伝わりやすい
  • 「毎晩」「週に◯回」「夜間◯回」など、“頻度”は短くても入れる(特例入所の要件でも「頻繁に見られる」等が言語化されています)東大和市公式サイト

例文②:退院期限が迫っている(行先が決まらない/介護量が大きい)

【特記事項/入所希望理由(例)】
現在入院中で、退院調整が進んでおり、退院後の生活先を早急に決める必要があります。退院後は車いすでの生活が見込まれ、移乗・排泄・更衣など、日常生活の場面で継続的な介助が必要です。
自宅は玄関や室内に段差が多く、廊下やトイレも狭いため、車いすで安全に生活を回すことが難しい環境です。同居家族は就労しており、日中の介護者確保が困難です。夜間も見守りが必要となる可能性があり、在宅で受け止めるには現実的に厳しい状況です。退院後すぐの受け皿として、施設入所を希望します。

【ひとこと追記(事実がある範囲で)】

  • 「移乗は2人介助」「排泄は全介助」など、“介助の中身”を短く一言
  • 退院時期の目安があるなら「◯月◯日頃」など、期限を明確に

例文③:主介護者が限界(病気/就労/ひとり介護で破綻)

【特記事項/入所希望理由(例)】
主介護者は同居家族1名で、介護が長期化し、心身の負担が限界に近い状況です。主介護者自身も通院が必要で、介護により体調が崩れやすくなっています。
本人は移動や排泄などで介助が必要で、夜間も呼び出しがあり、介護者の睡眠が分断されます。別居の親族は遠方や就労等の事情で、継続的な支援が難しく、介護体制が成り立ちません。在宅サービスも利用していますが、24時間のうち“家族が担う時間”がどうしても大きく、事故防止や見守りの面からも在宅生活の継続が困難です。施設入所を希望します。

【ひとこと追記(事実がある範囲で)】

  • 「介護者の通院(頻度)」「就労状況(夜勤・残業など)」
  • 「手伝えない事情(距離/育児/病気)」は、感情より“事実”を一行で

FAQ(よくある質問)5問

Q1. 特養の順番待ちって、結局は先着順なんですか?

A. そう思いたくなるのですが、先着順“だけ”で決まるとは限りません。
自治体や地域によっては、入所の必要性を点数で評価して優先順位を作る仕組みが示されています。新宿区役所
だからこそ、申込書の特記事項は「気持ち」よりも、在宅の困難さが読み取れる事実を置くのが大事になります。

Q2. 点数(優先順位)って、何が見られることが多いですか?

A. 例として新宿区では、要介護度などの「本人の状況」と、在宅介護期間・サービス利用などの「介護環境」を合わせて点数化する形が示されています。新宿区役所
ただし項目や配点は地域差が大きいので、(自治体名)+特養+入所調整基準/選考調査票で一度確認しておくと、書類の“読み方”がぶれません。

Q3. 要介護1・2だと、特養は無理ですか?

A. 原則は要介護3以上ですが、要介護1・2でも「特例入所」として検討対象になる場合があります。厚生労働省・東大和市公式サイト
この場合、国の指針では「特例入所の要件に該当し、他での生活が著しく困難な理由を申込書に付記」とされています。厚生労働省

Q4. 特記事項には、何を書けば一番伝わりますか?

A. いちばん伝わるのは、これです。

  • 何が起きるか(行動・症状・介助の内容)
  • どれくらい起きるか(頻度・時間帯)
  • その結果どうなるか(転倒リスク、火の不安、家族が眠れない、就労が続かない等)
    特例入所の要件の書きぶりも「頻繁に見られる」など、まさに“頻度”を言葉にしています。東大和市公式サイト

Q5. 申込み後に状態が変わったら、どうすればいい?

A. 状態変化(入院、転倒、認知症症状の悪化、介護者の病気など)があったら、早めにケアマネさん/相談員さんへ共有が安心です。
自治体・施設側は、入所選考を定期的に行い、必要性を総合的に評価する運用が示されている例もあります。大阪市公式ウェブサイト
「今の状況」を最新にしておくことが、結果的にいちばん誠実で強いです。

おわりに:特養の順番待ちは「先着順」だけでは決まりません

特養の待機順は、申し込みの早い順に一直線で並ぶとは限らず、入所の必要性(切迫度)が見られることがあります。

だからこそ申込書の特記事項は、気持ちよりも、「頻度 × 場面 × 結果」で淡々と事実を伝えます。

  • 何が起きているか(行動・症状・介助の中身)
  • どれくらい起きるか(毎晩/週◯回/夜間◯回など)
  • その結果どうなるか(転倒リスク、火の不安、家族が眠れない、就労が続かない など)

「盛る」のはNGですが、現実を具体的に言葉にすることは大切です。

書き方で不利にならないように、この記事のポイントと例文を参考に、必要なところだけ差し替えて使ってみてください。

サニーデイ

在宅介護がんばる皆さまのココロが晴れやかになりますように!

ABOUT US
福行(現役の主任介護支援専門員)
介護業界30年目の現役の主任介護支援専門員です。 介護福祉士を20年、ケアマネジャーは10年目です。
これまでのケアマネジャーの経験から、ビジネスケアラーとして遠距離介護や在宅介護を頑張る皆さま、介護保険サービスの使い方や将来の介護に不安を感じる方のために参考になるブログを書いています。
ブログの内容は、担当するご家族様から頂くたくさんの質問のなかで、特によく聞かれる質問をもとに、介護保険制度やサービスの使い方について分かりやすく解説しています。