目次
はじめに
認知症という言葉を聞くと、多くの人が何かと特別な対応が必要な状態を想像するかもしれません。
しかし、認知症の人々も私たちと同じように、日々の生活の中でその人なりに生きています。
今回ご紹介する『認知症の人は何を考えているのか?』は、そんな認知症の一人ひとりの感じる世界を、私たちが少しでも理解できるようにする工夫がたくさんあります。
この本は、認知症の方とその介護者が直面する具体的な問題に対して、それにどの様な考え方でどう対応すればよいかの参考になります。
この本から新たな知識を得て、認知症の人々とより良い関係を築く一助となるでしょう。
「認知症の人は何を考えているのか?」はどんな本なの?
この本は、認知症の人々が示す行動や発言の背後にある理由を解明し、それを理解することでケアの質を向上させることを目指す一冊です。
認知症の人々がなぜ介護者を困らせるような行動や言葉をとるのか、その根底にある「人間らしい気持ち」に焦点を当てています。
認知症の人々は、
- 迷惑をかけたくない
- 自分でできることは自分でしたい
- 役に立ちたい
といった感情を持ち続けています。
しかし、症状によりこれが上手く表現できず、結果的に周囲に迷惑をかける形になることがあります。
そのことを理解したうえで、介護する側はどのように関わっていけば良いかを示してくれる内容となっています。
認知症の問題行動の理由になっている部分が分かるんだね。
内容の豊富さ:★★★★☆(4.5)
この本は、はじめの4章は、認知症の方では比較的見られたり、症状が特徴的な事例について、認知症の方一人一人がどのように感じているか、どのような思考を持っているかを理解することに重点を置いています。
また、第5章では、認知症の症状からよくみられる行動10ケースについてQ&Aのようなテンポで解説しています。
本で扱っている事例数は多くはありませんが、それぞれの内容の理由や背景をしっかり説明されているので、応用が利く内容となっています。
実用性:★★★★★
この本はマンガによって、具体的な状況を明確に示すことで、現実の介護者が遭遇する可能性のある様々な状況への適切な対応方法を伝えてくれます。
さらに、各章では認知症の患者が示す特定の行動に対する理由と対処法が詳細に説明されています。
これにより、介護者はただ問題を把握するだけでなく、それにどう対応すればよいかの具体的なヒントを得ることができます。
例えば、認知症の方がトイレで食器を洗う事例が出てきます。
その方はなぜある特定の行動を取るのか、その心理的、生理的背景を理解することが、実際の介護プロセスでの適切な対応を導くための鍵となります。
この本は、介護の現場で直面する多様な問題に対して、実用的かつ具体的な解決策を提供しており、介護者にとって非常に価値のある内容になっています。
情報の正確性:★★★★☆
本書の情報の正確性は、筆者の20年にわたる介護経験に基づいおり、認知症の症状や行動の背景にある医学的、心理学的理由を交えて説明しています。
これは、理論だけでなく実践に基づいた知識の提供として非常に価値があります。
理論だけでなく、実践に基づいた知識だから、参考になるね。
一方で、本書は医学的な研究や最新の介護技術に関する詳細な引用や参照を少なめです。これは、書籍がより体験談や個人の観察に重きを置いているためです。
そのため、すべての読者が求める科学的な厳密さには多少欠けるかもしれませんが、実際の介護の場面で役立つ実用的なアドバイスが満載です。
特に、認知症の人々の行動に対する深い理解を促す情報は、介護を行う多くの人々にとって新たな視角を提供し、役立つことでしょう。
読みやすさ:★★★★☆
本書は、章の導入に漫画を用いることで、読み始める前にその章で扱う内容の概要を視覚的に理解できるようにしています。
この工夫は、認知症の複雑な問題を、読者が親しみやすい形で捉える手助けとなりますね。
また第5章では、漫画を通じて、重要なポイントや介護のコツを簡潔に伝えることができ、理解を容易にします。
しかし、認知症に関する医学的な情報やその原因について説明する部分では、専門的な用語が必然的に登場します。
この本では、専門用語に対する説明を試みていますが、この説明の対象が、施設介護者向けなのか、在宅介護をされている家族なのか、一部の読者には分かりにくく感じられる場合があります。
さらに、各章で扱う内容が広範囲にわたるため、テーマ間のつながりや一貫性が時折欠けることがあり、読み進めるうえでの流れがスムーズでないこともあります。
気持ちへの影響:★★★★☆
本書は、認知症の人々が示す様々な行動の背後にある心理や感情を深く掘り下げることで、介護者が周辺症状の行動をより良く理解するための手助けをしています。
これにより、介護の日々の中で感じるかもしれない無力感やストレスを和らげる助けとなり、認知症の方との関係をより豊かなものに変えることができるでしょう。
一方で、認知症の介護は感情的にも非常に負担が大きいため、本書の内容がすべての介護者にとってポジティブな影響を与えるわけではありません。
たしかに、今、介護でクタクタなのに、おじいちゃんおばあちゃんの気持ちを推し量る前に、介護をがんばる方々の大変さを分かってほしいもんね…
特に、現実的な解決策を求めている介護者にとっては、理想的な対応が難しい場合もあるため、書籍の提案が介護現場の大変さと一致しないことがあります。
しかし、認知症の人々の行動に対する理解を深めることは、長期的に見れば介護者自身の心理的な負担を軽減する可能性があります。
総合評価:★★★★☆(4.5)
全体的にこの本は、認知症の方一人一人がどのように感じているか、どのような思考を持っているかを理解することに重点を置くことで、認知症の介護に関わる人々に多角的な視点を提供し、彼らが直面する課題に対して具体的な理解と対応策を示していました。
筆者の豊富な経験と実例に基づく解説は、介護職員だけでなく、認知症の介護に関わるすべての人々にとって有益です。
特に、認知症の患者がどのような感情を抱えているか、その行動の背後にある心理を理解することは、介護を行う上で非常に重要ですね。
この本は、それらの側面を詳しく解説、対処法の一例も解説されていました。しかし、本書の関わり方が認知症の個々の症状に対して同様に効果的なわけではないことも注意は必要です。
この本をおススメできるのは、現場で直接的に役立つアドバイスや、介護の難しさを和らげるための実用的な情報が含まれているため、認知症介護に携わる施設介護系の介護職員になります。
認知症介護について深く学びたいと考えている人はぜひ手に取ってみてください。
おわりに
認知症の方一人ひとりが直面する困難を理解し、適切な支援を提供するためには、その方の理解が必要です。今回ご紹介した本は、そのアドバイスを提供してくれました。
認知症の介護は、時に大きな挑戦を伴いますが、適切な知識と理解があれば、その困難を乗り越え、その方にとって最良のケアを提供することが可能です。
『認知症の人は何を考えているのか?』は、そんな知識と理解を深めるための一助となるでしょう。
認知症介護の現場で働く方々、またその家族が今回の本から認知症についての理解を深め、よりよい介護となることを願っています。
認知症介護を頑張る皆さまのココロが晴れやかになりますように!
それは助かるね!