はじめに:いろいろ立派な施設を見ると…
介護施設を探していると、新しくて立派な建物や、充実した設備に目が引かれます。
最新のリハビリ機器をそろえたデイサービス。
施設内の厨房で作られる手作りの食事。
シェフが考えた季節のメニュー。
豊富なレクリエーションや外出行事。
こうした特色を見ると、

「ここなら、入所した後も楽しく暮らせそう」
「少しくらい費用が高くても、良い生活を送れるのではないか」
と感じるのは自然なことです。
私自身も、ケアマネとして駆け出しの頃は、設備が新しく、さまざまなサービスをそろえている施設がよいのではないかと考えていました。
しかし、いろいろな施設のその後を見るなかで、考え方は変わりました。
施設を選ぶときに大切なのは、今、目の前にある魅力だけではありません。
その特色が将来なくなったとしても、ご本人が無理なく暮らし続けられるか。
そこまで考えて選ぶ必要があると思うようになりました。
施設の魅力が、ずっと続くとは限らない

新しく開設された施設では、ほかの施設との違いを出すために、さまざまな特色が掲げられます。
例えば、
建物の2階が高齢者向けの住まいになっており、1階には最新機器をそろえたデイサービスが併設されている。
入居者は日中、そのデイサービスを利用して、運動や活動を楽しめる。
このような施設は、入居を考えているご本人やご家族にとって、とても魅力的に見えるでしょう。
ですが、開設後に思ったほど利用者が集まらなかったり、職員を確保できなかったりすると、併設されたデイサービスの運営が難しくなります。
結果としてデイサービスは閉鎖してしまい、そこを利用することを楽しみにしていた入居者が、日中に行く場所を失ってしまう。
そして、食堂で長い時間を過ごすようになる。
私は、こうした変わりゆく施設をこれまで何度も見てきました。結果として、特色だけを見てその施設を紹介しなくてよかったと思ったこともあります。
またほかでは、特別養護老人ホームでも、建物を大きくして多くのユニットを用意したものの、必要な職員が集まらず、一部のユニットを閉鎖したまま運営しているところがあります。
立地や交通の便がよく、まるでホテルのような有料老人ホームであっても、思うように入居者が集まらず、閉鎖されたり、建物の一部が別の事業者へ貸し出されたりする例もありました。

そういうふうに変わるなら、すぐに出ていけばいいじゃないの?

それで、移った先でも同じようにサービスが縮小されるかもしれないでしょ。

そうか…そう考えると、次を見つけるのも難しいかもね。

それに、「人員が回復次第、サービスは再開の方向で検討します」的なことも言われると、移るのにも躊躇するよね。
計画どおりに入居者を受け入れられなければ、当然、施設の収入にも影響します。
施設が開設時に掲げていた理想は、最初から無理があったのでしょうか。
施設を経営する方々は、本当に良い施設を作ろうとしていたのだと思います。
しかし、介護施設の運営には、多くの職員と費用が必要です。
人材不足、物価高、人件費の上昇などによって経営が厳しくなれば、当初のサービスを維持できなくなることがあります。
手作りの食事も、変わる可能性がある

「施設内の厨房で、毎日手作りしています」
この言葉に魅力を感じるご家族は多いと思います。
施設へ入所しても、できるだけ家庭に近い食事を食べさせてあげたい。
温かく、手の込んだ料理を楽しんでほしい。
そのように願うのは、とてもよく分かります。
ただ、施設内で食事を手作りするには、調理をする職員が必要です。
食材費だけでなく、厨房職員の人件費、厨房設備の維持費、衛生管理にかかる費用なども必要になります。
物価や人件費が上がり、厨房職員の確保も難しくなるなかで、施設内調理を続けることが負担になる場合があります。
その結果、施設内で一から調理する方式をやめ、私の周りでも、調理済みの食材を温めて提供する方式へ変更する施設を見るようになりました。
あるいは、冷凍の弁当を温めて出すところもあります。

ええ、手作りが良かったのにって絶対思っちゃうよ。
もちろん、調理済みの食事だから、直ちに悪い食事ということではありません。

安定した栄養管理や衛生面など、良い部分もあるんだよ。
しかし、「手作りの食事」を大きな理由としてその施設を選んだ場合、その特色がなくなれば、施設を選んだ理由の一つも失われることになります。
手作りの食事が魅力的であっても、それだけを決め手にするのは少し危険です。これは、私自身の反省も踏まえています。
調理方法が変わったとしても、
- 本人に合った食事形態が提供されるか
- 温かい食事を食べられるか
- 食欲や体重の変化を見てもらえるか
- 本人の好みを可能な範囲で取り入れてもらえるか
これらの確認はしたいものです。
食事は、多くの入居者にとって、一日の大きな楽しみです。
食生活の基本が守られるかを見ることは大切なポイントです。
一番の特色がなくなった後を想像する
施設の見学時に、
この施設で一番魅力を感じているものがなくなったら、ご本人の毎日はどうなるだろう。
・最新のリハビリ機器が使えなくなったら。
・併設のデイサービスへ行けなくなったら。
・手作りの食事が調理済みの食事へ変わったら。
・行事やレクリエーションが減ったら。
・夜間の職員体制が見直されたら。
そうなったときにも、その施設で安心して暮らし続けられるでしょうか。
そんなことを、ご家族で一度考えてみるのもよいでしょう。

「新しい施設」の特色が失われれば、建物や設備が、「昔からある施設」と、生活の内容が大きく変わらなくなることもあります。
そのときに残るのは、
- 施設までの距離
- 毎月の費用
- 基本的な介護
- 職員の関わり方
- 困ったときに相談できる関係
といった、華やかではない部分です。
施設の特色は変わることがあります。
しかし、施設まで通う距離や、毎月支払う費用は、ご本人とご家族の生活に長く影響し続けます。
家族が無理なく通える距離は、大きな価値

施設を探すとき、新しくて設備の整った少し遠い施設と、建物は古くても自宅から近い施設で迷うことがあります。
このようなときは、家族が無理なく通える距離も、大切な判断材料のひとつです。
近い施設であれば、
- 面会へ行きやすい
- 衣類や日用品を届けやすい
- 施設から相談を受けたときに対応しやすい
- 急な受診や体調変化の際に駆けつけやすい
- 本人の表情や生活の変化に気づきやすい
という利点があります。
家族が頻繁に通いなさい、という意味ではありません。
ただ、
本人に会いたいと思ったときや、
少し様子が気になったときに、
過度な負担なく足を運べる距離は、それだけで大きな安心になります。
最新設備は将来使われなくなるかもしれません。
施設独自のサービスは縮小されるかもしれません。
それでも、家から近いという条件は、簡単には変わりません。

でも、近いからというだけで選ぶのも、ちょっと心配じゃない?

もちろん距離だけでは決められないよ。中身を確認したうえで、近さも大切な条件として考えるんだね。
長く支払える費用かを考える

施設選びでは、入所時の費用だけでなく、その費用を何年も支払い続けられるかを考える必要があります。
最初の数年間は家族が不足分を補えたとしても、その負担をいつまで続けられるかは分かりません。
・ご本人の年金や預貯金だけで足りるのか。
・医療費や日用品費を含めると、毎月いくら必要なのか。
・将来、介護度が上がった場合には、費用がどのように変わるのか。
パンフレットに表示された月額料金だけでなく、実際に必要となる費用全体を確認することが大切です。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、家賃や食費のほかに、介護保険サービスの自己負担、医療費、生活支援費、福祉用具などの費用が加わることがあります。

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の料金は、表示された月額だけでは分かりにくいです。こちらの記事で詳しく説明しているよ。
有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅「介護施設」の費用のなかみ
一方、特別養護老人ホームなどでは、所得や預貯金などの条件を満たす方が申請することで、食事代やお部屋代の負担が軽くなる場合があります。

特養などでは、条件を満たせば食事代やお部屋代が軽くなる制度もあるよ。
【最新2024年度改訂版】「介護のお金」その2~お食事代とお部屋代は安くなるの?~
申請すれば誰でも安くなるわけではありませんが、対象となる方にとっては、毎月の負担を大きく抑えられる制度です。
特別養護老人ホームの費用は、要介護度、居室の種類、負担限度額認定の段階などによって変わります。
実際の費用の目安については、こちらの記事も参考にしてください。
設備が新しい施設へ無理をして入るよりも、家から近く、利用できる制度を使いながら無理なく支払いを続けられる施設の方が、ご本人にもご家族にも負担の少ない良い選択となる場合があります。
家族が介護費用を負担し続けることに悩んでいる方には、こちらの記事もあります。
※費用や制度の対象条件は、本人の所得や資産、施設の種類などによって異なります。詳しくは市区町村の窓口、施設の相談員、担当のケアマネジャーなどへご確認ください。
施設だけで、本人らしい暮らしをすべてつくるのは難しい
施設へ入所すると、ご家族は、
「もっとリハビリをさせてほしい」
「もっと外出させてほしい」
「もっとレクリエーションをしてほしい」
「本人の好きなことを見つけてほしい」
と希望されることがあります。

それはそうだよ。おじいちゃんおばあちゃんに楽しく暮らしてほしいもん。
しかし、施設の種類や職員配置によって、できることには限りがあります。
特に、ご本人自身にも何をしたいのか分からない状況で、
「本人が楽しめることを、何か見つけてください」
と施設へお願いすることは、実際にはとても難しい依頼です。
職員がさまざまな活動へ誘ったり、本人の好みを探ったりすることはできるでしょう。
しかし、限られた人員のなかで、一人ひとりの新しい趣味や生きがいを見つけ、継続して支えることができる施設は、決して多くありません。
だからといって、何もしないことを肯定するということでもありません。
家族にしかできないことは、介護そのものではなく、その人がこれまで、どのように暮らしてきたのかを施設へ伝えることだと思います。

例えば、
「父は昔から将棋が好きでした。将棋盤を持ち込んでもよいですか」
「母は編み物をしていました。施設でも続けられますか」
「毎朝新聞を読む習慣がありました」
「庭仕事が好きだったので、植木の水やりなど、できることはありますか」
「外出が好きなので、家族が迎えに来て出かけてもよいですか」
といった、具体的な情報や相談があれば、施設側も支援を考えやすくなります。
「もっと何かしてください」とお願いするよりも、
この人は何を大切にしてきたのかを伝え、それを施設でも続けられるか相談する。
その方が、ご本人にとっても、施設にとっても前向きな話し合いになります。
特色よりも、暮らしの土台を見る

施設のパンフレットやホームページには、魅力的な言葉が並んでいます。
設備や食事、レクリエーションも、大切な比較材料です。
ただし、それらは施設の「特色」であり、生活の土台とは分けて考えた方がよいと思います。
本人の暮らしを支える土台は、
- 必要な食事が安定して提供される
- 排泄や入浴などの介護を受けられる
- 体調変化に気づいてもらえる
- 緊急時に必要な対応を受けられる
- 本人の尊厳が守られる
- 家族が相談したときに話を聞いてもらえる
- サービスや体制が変わるときに説明がある
といった部分です。
施設独自のサービスが一つなくなったとしても、この土台がしっかりしていれば、生活を続けられる可能性があります。
反対に、最新設備や豪華な食事があっても、基本的な介護や説明が不十分であれば、安心して暮らせる施設とは言いにくいでしょう。
おわりに:100点の施設ではなく、長く付き合える施設を選ぶ

すべての希望をかなえてくれる100点の施設を探すのは、簡単ではありません。
人が働き、人が暮らす場所ですから、入所後に多少の行き違いや不満が起きることもあります。
経営環境や人員体制が変わり、サービスが見直されることもあるでしょう。
大切なのは、何も変わらない施設を探すことではありません。
変化があったときに、
- なぜ変わるのかを説明してくれる
- 本人の生活にどのような影響があるか考えてくれる
- 失われたサービスに代わる方法を一緒に考えてくれる
- 基本的な介護を守ろうとしてくれる
そのような施設かどうかを見ることです。
施設選びでは、立派な建物や最新設備に目が向きやすいものです。
しかし、入所後の生活を長く支えるのは、目立つ特色だけではありません。
家族が無理なく通える距離。
長く支払い続けられる費用。
必要な介護が安定して受けられること。
本人がこれまで大切にしてきた生活を、家族と施設が一緒に考えられること。
こうした部分を、施設選びの中心に置いてみてください。
施設の魅力は、年月とともに変わることがあります。
それでも、ご本人が安心して暮らし、ご家族も無理なく関わり続けられるか。
その視点が、後悔の少ない施設選びにつながるのではないかと思います。
施設探しに迷っている皆様の参考になれば幸いです。

かいごをがんばる皆さまのココロが晴れやかになりますように!








これまで頑張ってきたんだからそういう夢のようなところに住みたいよね。